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抵当権は過去5年間で3回出題されています。
最近出題されていないのでそろそろ出題されそうな分野です。
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抵当権とは?
抵当権とはお金をただ貸すだけでは、逃げられるかもしれないし、不安ですので、債務者が持っている土地や建物に抵当権を設定して確実に債権を回収できるようにするための制度です。
抵当権を設定しておけば、債務者がお金を返してくれなかった場合、抵当権を設定した土地や建物を売り払ってそこから資金を回収することができます。
ここでは、抵当権を設定する人を「抵当権者」、抵当権を設定される人のことを「抵当権設定者」、お金を貸しているという権利のこと(上の例で言うと1000万)を「被担保債権」といいます。
抵当権を設定される人が抵当権設定者と覚えておきましょう。
また、建物に抵当権を設定しておけば、万が一建物が燃えてしまっても、火災保険請求権から優先弁済を受けることができます。
この性質を物上代位性といいます。
さらに、抵当権を設定しておけば、対象不動産について第三者が不法に占有等しており、目的物の価値が減少するような場合、抵当権者が当該占有者に対して妨害排除請求をすることができます。
担保にとってるのに何してるんだ~!と言えるわけです。
抵当権の対抗要件
抵当権の第三者に対する対抗要件は登記となっています。
抵当権を登記すると登記事項証明書の乙区に1番抵当権設定者とかの記載がなされます。
↓ こんな感じに。乙区の詳しいことは不動産登記法の記事を参照してください。
抵当権は1番抵当、2番抵当と1つの不動産に複数の抵当権を設定できます。
抵当権の順位の変更は各抵当権者の合意で変更できるが、利害関係者がいる場合はその同意を得、登記しなければ効力が生じません。
抵当権の実行
抵当権の目的物と及ぶ範囲
目的物
抵当権を設定できるのは、不動産・地上権・永小作権となっています。
抵当権の及ぶ範囲
次に、抵当権を建物に設定すると一言でいうけど、例えば建物にある畳や庭にある高価な石などにも抵当権が及ぶのかが問題になります。
順番にみていきましょう。
付加一体物
不動産にくっついて一体になっているものを付加一体物といいます。
例えば、増築部分とかですね。
これは、原則として抵当権の効力が及びます。
従物
従物とはその名のとおり主物(土地や建物)に従属しているものをいいます。
畳・建具・エアコン、ガソリンスタンドの地下タンクなどがこれにあたります。
従物は抵当権を設定する前から存在していたものには効力が及びます。
従たる権利
従たる権利とは借りている土地の上に建物を建てた場合など、建物についている権利、具体的には借地権や賃借権のことをいいます。
抵当権設定当時にあった、借地権や賃借権などの従たる権利に対しても及びます。
果実
果実は、りんごなどの自然果実と賃料などの法定果実のことをいいます。
法律的に少しおしゃれな表現ですよね。
抵当権の効力は被担保債権に弁済期が到来した後の果実に対しては効果が及びます。
当然ですが、被担保債権に弁済期が到来していないと債務不履行にならないので物上代位できません。
利息
抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。
法定地上権
法定地上権とは?
法定地上権については、具体例を見ながら説明していきます。
- 上の例でゾウさんがカエルくんに1000万円貸して、カエルくんの建物に抵当権を設定しました。
しかし、カエルくんはお金を返せなくなってしまい、ゾウさんは抵当権を実行して競売にかけ、犬に建物を売ってしまいました。
土地をもっているカエルくんは、犬に土地を使うから出て行ってくれといえるのでしょうか? - カエルくんの主張が認められるとすると、まだ使える家が取り壊されてしまいます。
民法ではこのような社会的な損失を回避するために、法定地上権という権利を定め犬が建物を使い続けることができるようにしています。
法定地上権の成立要件と成立しない場合 頻出
法定地上権は以下のよう4つの要件を満たす場合は成立しますので覚えておきましょう。
法定地上権の成立要件
- 抵当権設定当時、土地のうえに建物があること
- 土地と建物の所有者が同一であること(登記の同一性ではなく、所有権の同一性に基づき判断される。)
- 土地と建物の一方または双方に抵当権が設定されていること
- 抵当権の実行により土地と建物の所有者が別々になったこと
法定地上権が成立しない場合
- 更地に抵当権が設定され、その後に建物が建築された場合(※ 抵当権者が建物の建築に同意しているときでも成立しないので注意。)
- 1番抵当権設定当時、土地と建物の所有者が別々で、2番抵当権設定当時は土地と建物の所有者が同一の場合
- 所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後に建物が取り壊されて新しい建物が建築された場合(新しい建物についての共同抵当権の設定をしていない限り、新しい建物について法定地上権が成立することはない。)
賃貸借の保護
原則、抵当権設定登記後の賃貸借は抵当権者に対抗できません。
ですので、抵当権設定登記後の賃借人は、抵当権が実行されたことにより買い受けた人から「出て行ってください!」と言われたらすぐに出て行かないといけません。
すぐ!って言われても、そんなすぐに新しく住むとこが見つかるとは限らないですよね。
ですので、民法では「抵当権者に対抗することができない賃貸借により建物を使用している人は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6ケ月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。」と規定しています。
6ヶ月だけ待ってくれるということです。
第三取得者の保護
抵当権の消滅請求ができるのは第三取得者だけで、主たる債務者や保証人は請求できません。
また、保証人が不動産を取得して第三取得者になっても消滅請求できないので注意してください。
抵当権の順位の譲渡と放棄
過去問
債務者Aが所有する甲土地には、債権者Bが一番抵当権(債権額2,000万円)、債権者Cが二番抵当権(債権額2,400万円)、債権者Dが三番抵当権(債権額4,000万円)をそれぞれ有しており、Aにはその他に担保権を有しない債権者E(債権額2,000万円)がいる。甲土地の競売に基づく売却代金5,400万円を配当する場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。
- BがEの利益のため、抵当権を譲渡した場合、Bの受ける配当は0円である。
- BがDの利益のため、抵当権の順位を譲渡した場合、Bの受ける配当は800万円である。
- BがEの利益のため、抵当権を放棄した場合、Bの受ける配当は1,000万円である。
- BがDの利益のため、抵当権の順位を放棄した場合、Bの受ける配当は1,000万円である。
解答
1 BがEに抵当権を譲渡
BとEの順位が入れ替わる。
よって、Bは0万、EはBが本来もらえる2000万をもらえる。
2 BがDに抵当権の順位を譲渡
BとDの関係ではDが優先的に弁済を受けるので、BとDが本来もらえる3000万(Bの2000万+Dの1000万)からDは全額の3000万円もらえ、Bは0円
3 BがEのために抵当権を放棄
BE間の配当は両者の債権額に応じて割り振りされる。
よって、BEがもともともらえるのは2000万(=Bの2000万+Eの0万)で両者の債権額の割合1:1(B:2000万、E:2000万)に応じてBは1000万、Eは1000万もらえる。
4 BがDのために抵当権の順位を放棄
BD間の配当は両者の債権額に応じて割り振りされる。
よって、BDがもともともらえるのは3000万(=Bの2000万+Dの1000万)で両者の債権額の割合2:1(B:2000万、D:1000万)に応じてBは2000万、Eは1000万もらえる。
根抵当権について
根抵当権とは一定の範囲に属する不特定の債権を、あらかじめ定めた極度額までは担保するというような債権です。
一定の範囲に限定されており、あらゆる範囲とするような包括根抵当権は禁止されています。
根抵当権も抵当権と同じく第三者に対する対抗要件は登記で、債務者の承諾などは必要ありません。
元本の確定
元本確定前の転抵当以外の譲渡・放棄・順位譲渡・順位放棄は認められていません。
根抵当権設定者は、根抵当権の設定の時から3年を経過したときは、担保すべき元本の確定を請求することができます。
この場合において、担保すべき元本は、その請求の時から2週間を経過することによって確定します。
元本確定前の根抵当権では、個々の債権との間に随伴性がありません。
元本の確定後においては、根抵当権設定者は、その根抵当権の極度額を、現に存する債務の額と以後2年間に生ずべき利息その他の定期金及び債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求することができる。
その他の担保物権
留置権について
ゾウさんがカエル君にパソコンの修理を依頼していましたが、急にパソコンを返してくれ!と言い出しました。
修理代金をもらっていないのでカエル君は修理代金を払ってもらうまでパソコンの引き渡しを拒むことができます。
これを留置権といいます。
留置権の成立要件は以下の4つです。
留置権の成立要件(宅建試験では覚える必要なし)
- 他人の物を占有していること
- 債権が目的物に関して生じたものであること
- 債権が弁済期にあること
- 占有が不法行為によって始まったのではないこと
宅建試験的にはとりあえず以下の2つだけ覚えておけば十分でしょう。
留置権者は善良な管理者の注意義務(善管注意義務)によって占有する必要がある。
留置権には物上代位性がない。
先取特権について
ゾウさんは会社に勤めていましたが、その会社が破産してしまいました。
ゾウさんの給料債権は、他の銀行などの債権よりも優先して支払われます。これを先取特権といいます。
読んで字のごとく、他の債務者より先に取れる特権が与えられているわけです。
これも宅建試験的には以下の2点だけおさえておきましょう。
先取特権は法定担保物権なので、当事者の合意は必要なく、一定の法律要件を満たせば成立します。
先取特権には物上代位性がある。
質権について
ゾウさんはカエル君に100万円貸しましたが、返してくれるかどうか不安なゾウさんはカエル君の車を引き渡してもらって、質権を設定します。
そして、カエル君が返済できなくなったときは車を売ってそのお金から優先してお金を回収できます。
これを質権といいます。
質権は目的物の引き渡しを要件とする要物契約なので、抵当権と違い、物を使い続けることができません。
また、質権は債権者と債務者の契約により成立する約定担保物権です。
質権には動産質、不動産質、権利質の3種類があります。
留置権者と同様質権者も善良な管理者の注意義務(善管注意義務)によって占有する必要があります。
不動産質について以下の2点をおさえておきましょう。
不動産質権者は利息を請求できない。
不動産質権は10年を超える期間を定めることはできない。10年を超える期間を定めた場合は10年になる。
抵当権に関する宅建過去問
Aは、Bからの借入金の担保として、A所有の甲建物に第一順位の抵当権(以下この問において「本件抵当権」という。)を設定し、その登記を行った。AC間にCを賃借人とする甲建物の一時使用目的ではない賃貸借契約がある場合に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば、正しいものはどれか。
- 本件抵当権設定登記後にAC間の賃貸借契約が締結され、AのBに対する借入金の返済が債務不履行となった場合、Bは抵当権に基づき、AがCに対して有している賃料債権を差し押さえることができる。
- Cが本件抵当権設定登記より前に賃貸借契約に基づき甲建物の引渡しを受けていたとしても、AC間の賃貸借契約の期間を定めていない場合には、Cの賃借権は甲建物の競売による買受人に対抗することができない。
- 本件抵当権設定登記後にAC間で賃貸借契約を締結し、その後抵当権に基づく競売手続による買受けがなされた場合、買受けから賃貸借契約の期間満了までの期間が1年であったときは、Cは甲建物の競売における買受人に対し、期間満了までは甲建物を引き渡す必要はない。
- Cが本件抵当権設定登記より前に賃貸借契約に基づき甲建物の引渡しを受けていたとしても、Cは、甲建物の競売における買受人に対し、買受人の買受けの時から1年を経過した時点で甲建物を買受人に引き渡さなければならない。
答え:1
- 正しい:抵当権の範囲として果実である賃料債権も入ります。
- 誤り:抵当権設定登記より前に賃借権を得ていた場合は対抗できます。
- 誤り:抵当権設定登記後の賃借権なので買い受け人に対抗できません。しかし、すぐに家から出ていけ!とするのはかわいそうなので、建物の競売における買受人の買受けの時から6ケ月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡す必要はありません。
- 誤り:買い受け人に対抗できるので引き渡す必要はありません。